☆4.5 2019以前 剧情 香港映画

香港映画『十年』Ten Years

はじめに

香港に興味がない人にとっては香港の変わり様や危機感についてとんと知らないでしょう。2014年に「雨傘運動」が連日ニュースになったのをかろうじて覚えている程度だと思います。
その雨傘運動についても何が元でそんな運動が起きたかはもうお忘れかもしれません。選挙で香港の民主化を主張する人物が立候補できないようにしたためなのですが、もう一つの伏線があります。2011年に香港の教科書を中国愛国心を強調するものに刷新しようとしました。香港民がこれに強く反発し撤回させたのです。
1997年にイギリスから中国へ返還されたとき、両国間で協定が結ばれ、香港の民主制度は向こう50年維持される(一国二制度)というのが今は既に反故にされかかっています。
2011年の教科書問題の頃から香港人は中国政府に対する反感が強くなっています。そのフラストレーションが爆発したのが雨傘運動です。
そして2015年にこの映画が単館で公開されるも口コミで噂が広まっていき、大ヒットを記録しました。また2016年の香港電影金像獎最佳電影(最優秀作品賞)を受賞しました。もちろん中国政府はこの映画に関する情報をシャットアウトしました。

中国政府の批判をし、香港の独立をも主張している映画であることは知っていましたが、実際に観てみると、これほど強烈なのかと強い印象が残りました。
5本のオムニバスはそれぞれ数年後から十年後の香港を描いています。

オススメ度

基本情報

邦題:十年
英題:Ten Years

予告編

簡単なあらすじ

浮瓜』(エキストラ)

2人の男がなにやら危ない話をしています。金民党と真愛党の党首が労働節での集会に来るのを襲う段取りをしています。実は黒幕は政府、国家安全条例の制定の為に党首を襲わせて法律の必要性を訴えるのです。2人の男たちは金で「芝居」に雇われただけ。しかしこの物語の結末は…。とても切なく皮肉なものです。

冬蝉』(冬の蝉)

失われていく昔の香港、そのレンガや瓦礫を標本にしていく物語です。
絶滅する生物の標本を集めるように香港を標本にしていきます。最後は標本採集の男が自分を標本にしてくれと…。

方言』(方言)

香港のタクシー運転手に普通話(中国語・北京語のこと)の試験が導入されます。試験に合格しないと空港や港からの乗客を乗せることができなくなります。
主人公は普通話が苦手です。発音練習もしますが、全然上達しません。普通話を話す客を乗せた際、行き先を普通話で言われ、それをカーナビで検索しますが、発音が悪くて機械に認識してもらえません。
「昔は英語を勉強させられたのに・・・」
ある日外国の客が乗り込みます。主人公は英語で行き先を問いかけますが、その外国人も普通話で行き先を指定します。

香港を旅行すると繁華街でないような飲食店では広東語しか喋れないおばちゃんとかいます。英語も通じない。さすがに最近は英語や普通話も話せる従業員が増えていることは確かです。また、マッサージ店なのでは中国大陸からの出稼ぎ労働者なのか、普通話しか話せない従業員もいます。

この映画の主人公には同情します。

自焚者』(焼身自殺者)

この話が一番強烈。あからさまに中国政府とイギリスを批判(一国二制度の反故を黙って見過ごしているから)し、香港独立を訴えています。香港独立を主張して逮捕され、二十数日間ハンガーストライキをして死んだ民主化運動家の後追いで焼身自殺する人を描きます。
天安門事件とか雨傘運動とかいろいろなエピソードを混ぜこぜで描いたような作品。これが香港人の本音なのかな?と思います。
最も観てほしい作品がこれです。これがこのオムニバス映画のメインディッシュです。

本地蛋』(地元産の卵)

香港は農家や畜産業が少ない国(地域)です。この作品では香港で最後の養鶏場が廃業することになりました。政府から設備に難癖をつけられて、追い込まれたためです。香港産の卵を販売していた店主が主人公です。
ある日制服を着た子供たちがやってきて店の様子の写真を撮ります。店主がやめろと言ってもこの店には禁止用語があるから報告するというのです。
また、書店でもその子供たちは本のタイトルと禁止用語が書かれた紙を照らし合わせて確認しています。
日本では報道されていないと思いますが、香港では中国政府に良く思われていない書店の店長とかが何人か行方不明になっています。後にどうやら中国当局によって攫われたということが明らかとなっています。そんな事件がこの映画の背景にあると思われます。
この映画も是非観て頂きたい作品になっています。

感想ほか

オムニバスの最後に「為時已晚」(もう間に合わない)から「為時未晚」(まだ間に合う)に字が変わります。中国政府のえげつない香港の中国化にまだ諦めるなという香港人への強いメッセージが込められています。

香港電影金像獎の作品賞を決定したメンバーの勇気に賛辞を送りたいです。
私は香港の独立を支持します。

-☆4.5, 2019以前, 剧情, 香港映画